その三
深夜に街を歩いていると、時刻表にない電車が走っている。
うっかりその電車に乗ると、見たこともない場所に連れていかれる。降りようとしても、途中どこにも止まらない。
車内を見まわすと、電車に乗っているのは、目も鼻もないのっぺらぼうばかりだ--。
「幽霊電車の噂(うわさ)というのは、だいたいそんな感じだろう?」
おれの質問に、上原君は何度も勢いよく頷(うなず)いた。
「さすがシャチョーさん、よくご存じで」
「いや。ご存じも、何も……」
おれは肩をすくめた。
電車の運行はもともと時刻表にすべて記載されているわけではない。営業時間外の深夜、車両の移動や軌道点検のために電車を走らせることもある。その場合、電車に乗るのは運転手と点検員くらいだ。回送や点検用なので、停車場では止まらない。
点検のために車内の明かりを消したり、点(つ)けたりすることもある。急に車内の明かりが点くと、窓のガラスに光が反射して、車内にいる人の顔が見えないことがある。目も鼻もないのっぺらぼうの噂は、たぶんそのせいだ。
また、深夜に街を出歩いているのは酔っ払いが多い。そんな連中にかぎって、ありもしないものを見たと大袈裟(おおげさ)に吹聴(ふいちょう)するくせがある。
おれは上原君に、だいたいそんなふうに説明した。
「第一、おかしいとは思わないか。幽霊電車に乗ってどこでもない場所に連れて行かれた乗客の話が、どうやったら伝わるんだい?」
上原君は、おれの説明に目を丸くした。
「ヒャー。さすが本土(ヤマト)から来たシャチョーさんさぁ、たいしたものだねー。みんなが怖がっている幽霊(ユーリー)電車の謎を、全部解いてしまったさぁ」
一覧へ戻る