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日曜版  |  記事

「無言館」のうた 文 窪島誠一郎
第36回 喜劇役者になりたかった

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宮地英郎「自画像」
 開いているのか開いていないのかわからない、真ん丸眼鏡(めがね)のおくの半開きの眼(め)、少し突き出した唇とアゴ、かくされた意思とでもいうべきか、何か物言いたげにもみえる表情の「自画像」だが、剃(そ)り上げたような広い額や、ちょっと上を向いた顔の真ん中にある大きな鼻腔(びこう)には、どことなくひょうきんでおどけたふんいきがただよう「自画像」である。
 描いた画学生の名は宮地英郎。
 「無言館」に収められている画学生のなかでも、この宮地英郎ほど変わった経歴をもつ人物はいなかろう。だいたい本人は、美校を出たわけでも専門学校を出たわけでもない、ただの「絵好き」だった若者で、卒業したのは生まれ故郷北海道空知郡沼貝村(現・美唄市)に近い北海道庁立札幌工業高校(現・札幌工業高校)である。同校の本科家具科を卒業後、地元にもどって臨時教師として一年ほど働くのだが、何を思ったか昭和十六(一九四一)年春にとつぜん上京、何と当時一世を風靡(ふうび)していた落語界の大御所柳家金語楼(きんごろう)の劇団の門を叩(たた)き、舞台美術や装置の制作に携わり、その金語楼に才能を買われて、一躍喜劇役者として舞台にまで立つのだ。
 どんな芝居をしていたかは不明だが、そういえば描かれた「自画像」には何とはない愛嬌(あいきょう)ぶり、ひょうきんぶりの出どころがしめされているようで、ますます英郎の才能の豊かさ、幅広さに気づかされて唖然(あぜん)とする。

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