佐藤孝「林の道」
「佐藤孝」ときくと、才能ある戦没画学生の一人だったことよりも、あの太平洋戦争で戦死した出陣学徒の遺稿集『きけ わだつみのこえ 日本戦没学生の手記』のなかに、万人の心をうつ慟哭(どうこく)の手記をのこした佐藤孝を思いうかべる読者も多いだろう。
『きけ わだつみのこえ』は、かの大戦に出陣した学生七十五名の日記、手記、書簡をあつめた遺稿集で、一九四九(昭和二十四)年に刊行されていらい、一大ベストセラーとなった本だが、そこに記された佐藤孝の血を吐くような最後の数行は、今も多くの人々の心をゆさぶる名文として語りつがれている。
「…私は、学生時代の生活と軍人生活の数年間とを反省と比較によって、自己の道を見出すことなく、滅亡して行くかと思う。ああなんたる人間性の悪徳であろう。何たる自我への背信であろう。しかしすべては運命である」
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