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日曜版  |  記事

「無言館」のうた 文 窪島誠一郎
第43回 私は逃避していた

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市瀬文夫「温室の前」
 無言館に収蔵されている画学生のなかには、もし今も存命して画道に専心していれば、さぞ大きな仕事を成し遂げたであろうという期待を抱かせさせる逸材が何人もいる。戦争さえなければ、おクニのために命さえ捨てていなければ、現在の日本画壇を背負って立つような画家になっていただろうと思わせる俊英が何人もいるのである。
 そんななかでも、来館者の多くがその可能性に二重丸をつけたくなるのが、館の中央右手の奥の壁を大作二点で占領している画学生市瀬文夫だろう。
 飾られている市瀬文夫作品は、一点が「黒衣の婦人」と題される油彩の婦人像で、もう一点が一三○・七センチ×一八二・八センチの大画面に、女性三人が温室の前のフロアで、思い思いのポーズでくつろいでいる「温室の前」というタイトルの大作だが、ここではその「温室の前」についてくわしく紹介させてもらいたいと思う。
◇ ◇ ◇
 さしづめ、良質な室内楽の調べを聴くような作品、といっていいのではなかろうか。
 題名通り、これは「温室の前」でのんびりとした時間をすごす三人の女性の姿を捉えた油彩画で、市瀬家にはもう一点、同じ「温室の前」の描きかけの未完成作品、またこの絵のために描いたデッサンやスケッチが何点ものこされているそうだ。

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