絵・井桁裕子
合唱の作曲家は、もともと合唱をやっていた人が多い。新実徳英(にいみ・とくひで)君、信長貴富(のぶなが・たかとみ)君など合唱界で高い人気を誇る作曲家は、まさにそうだ。
では僕は、というと、公式作品リストに組曲や曲集で数えて、合唱作品は112曲載っており、さらにオペラや芝居の中の曲を加えればおびただしい数になる。しかし、合唱体験はわずかだ。高校時代のみ。しかも伴奏付きのものはピアノを弾いていたから、歌った記憶は貧弱である。
にもかかわらず、こんにちに至るまで、歌った記憶が脳裏に焼き付いている曲がいくつかある。
そのひとつが、ルネサンス期のフランドル楽派の中心・オルランド・ディ・ラッソ(ラッススとも・1532~94)の「マトナの君よ」という曲。フランドルは、現在の北フランスからベルギー辺りの地域だ。この曲は「モテット」と呼ばれる形で、現代のものとは異なるが「シャンソン」と呼ばれることもある。
「マトナ」とは、イタリア語の「マドンナ」が訛(なま)ったものらしい。ドイツ人の兵士がイタリアで出会った女性に愛を歌うが、美しい女性への憧れを示す肝心の「マドンナ」が訛ってマトナになってしまった。
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