絵・井桁裕子
ベートーヴェン・ファンは多い。何と言っても「第9」が一番、と言う人がいる。交響曲「運命」派も「田園」派も、ピアノ協奏曲「皇帝」派も、ヴァイオリンソナタ「春」が好きという人もいる。ほとんどの曲がコンサートやCDで聴けるし、楽譜も簡単に買える。
ところが、今回この散歩の途上で紹介する曲を知っている人は、あまりいないだろう。
「3つの選帝侯ソナタ」。知ってます?
バッハの「平均律クラヴィーア曲集」をピアノ音楽の旧約聖書と呼ぶことがあるが、新約聖書に該当するのはベートーヴェンの全32曲のピアノ・ソナタだ。
「選帝侯ソナタ」は、ここに含まれていない。名曲解説書でも、よほど詳しい書でなければ、載っていない。にもかかわらず僕は、中学か高校生時代にこの曲にはまり、毎日のように弾いて遊んでいた。
母の楽譜がピアノの上に積んであったが、母が弾くのはショパンやグリークのロマンチックな定番曲だったから「選帝侯ソナタ」には関心もなく、楽譜も持っていなかったと思う。
僕がこの曲を知った経緯は、謎である。
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