井上道義はわが国の音楽界にあっては珍しいような強い個性をもった指揮者だった。斯界(しかい)の伝統とか習慣などにとらわれすぎることなく、自由に活動した指揮者でもあった。このような想(おも)いを「過去形」で書かねばならないことに、筆者としては若干なりとも違和感を覚えてしまう。ご存じの方も少なくないと思うが、彼は2024年を最後に、指揮活動から引退してしまったのである。広く世界を見渡してみると、高齢になってからも充実した活動をしている指揮者は少なくないのに、まだ80歳にもならない井上の引退にはいろいろと考えさせられる要素も多い。
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