ペリー艦隊が初めてこの島を訪れたさい、ベッテルハイム牧師はたびたび艦を訪れ、琉球政府との交渉役や通訳として、せっせと自分を売り込んだ。
ベッテルハイムの申し出は最初こそ喜んで入れられたものの、実際に同行させると、かれの助言は琉球府との交渉に少しも役に立たなかった。通訳としても明らかな誤訳が多く、何より言うことが風見鶏(かざみどり)のようにコロコロと変わる。
ペリー提督がもっとも嫌うタイプだ。
最近は、島の人たちから珍しい眼鏡をかけた「波上眼鏡(ナンミンヌガンキョー)」、妙な洋犬を連れた「イヌガンキョー」と呼ばれて面白がられている--ペリー提督にとってベッテルハイムはそれだけの存在だった。
ベッテルハイム牧師は、布教活動がうまくいかなかったのはこの島の役人の妨害のせいだと、相手かまわず愚痴(ぐち)を垂れ流している。ベッテルハイムが、今回の事件を琉球府の役人相手に恨みを晴らすかっこうの機会だと思ったとしても不思議ではない。あるいは、思い込みが強い性格から、本当に殺人事件だと思い込んでいる可能性もある。今回の報告書だけではどちらともいえない。真相究明のための調査が必要だ……。
と、慎重に言葉を選びつつ、思ったまま意見を述べると、ペリー提督はニヤリと笑みを浮かべた。
机の引き出しを開け、一枚の紙を取り出して、サインをしてよこした。
「貴官を本件の調査係に任命する。事件の真相を明らかにしたまえ」
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