琉球府の役人とはその場で別れ、私は一人で周辺の調査を続けることにした。
沖に停泊する“クロフネ”ペリー艦隊に背をむけ、那覇市街目指して歩きはじめる。
河口から那覇の町中までは半マイルほどの距離だ。通りの脇に並ぶ民家は、周囲に珊瑚(さんご)岩の塀を巡らせ、正門(ゲート)の代わりに“ヒンブン”と呼ばれる一枚岩を置いて、風通しを確保しながら道からは家のなかを無造作に覗(のぞ)かれない仕組みになっている。家の多くは中庭に蔓性(つるせい)の植物をからませた緑の棚(グリーントレリス)を設け、そこに南洋のハイビスカスに似た“アカバナ”はじめ、良い香りのするジャスミン、その他色とりどりの花が咲いている。庭には、大小さまざまな蝶(ちょう)や虫たち、美しい声でさえずる小鳥たちが集まってくる。
英国生まれ、アメリカ東部で育った私の目には、あたかも植物園の中での暮らしのように見える。
十五分も歩けば那覇の中心街だ。私は足を止め、ふう、と一つ息をついた。
この島は亜熱帯気候に属している。昼間のひざしは強烈だ。湿度は高く、緑が多いので通りを吹き抜けていく風は思いのほか涼しく感じられるものの、港から歩いてくるとさすがに暑い。
私は額に浮かんだ汗を拭い、そのまま小手をかざすように前方を仰ぎ見た。
小高い山の辺(へ)に、美しい朱色の瓦が続いている。
琉球国の王府、首里(しゅり)城だ。
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