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日曜版  |  記事

沖縄変奏曲(20)
南十字星奇譚 8
作 柳広司 題字・絵 オザワミカ

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沖縄本島を横断する街道は与那原(よなばる)方面から来るとゆるい下りが続いていて、一日橋(いちにちばし)でS字にカーブする。薄暮の下り坂では、馬車は知らぬ間に勢いがつきがちだ。思った以上に速度が出た状態で曲がり具合を認識できず、そのまま川に突っ込んでしまった。あるいは、いつの間にか道の縁(へり)に寄っていて、斜めにかかった橋から落ちてしまった。そんなことが何度かあったのではないか。
 一日橋に伝わる白髪老婆(シラガーハーメー)の怪談も、もしかすると目眩(めまい)を起こして川に転落した老婆が、ほうほうの態(てい)で上がってきたところの目撃談だったのかもしれない。
 誰も乗っていない人力車から女の声が聞こえたのは、車夫が複雑な地形や川面に反射する音源をたどりそこなったのではないか。離れた場所の音がすぐ背後に聞こえる錯誤も、実験でよく見られる事例だ。翌日、取りに行った車の座席が濡(ぬ)れていたのは、夜露のせいか、さもなければ沖縄特有の局地雨(カタブイ)に降られた可能性が高い--。
「言われたとおり、手配してきました」
 自分の作業を続けながら考えごとにふけっていたおれは、上原君の声で我に返った。上原君は、
「私はこれで帰りましょうね」
 と言う。沖縄言葉(ウチナーグチ)で「帰りましょうね」は一緒に帰ろうという誘いではなく、「私は帰ります」という意味だ。おれは首を振り、
「次はこれとこれを向かいの木の枝にかけてきてもらえるかな? うん、あの辺り。こっちに面(めん)が見えるように。それが済んだら、次は……」
 と、いくつかまとめて指示を出していると、線路脇の林で急に、がさり、と音がした。

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