今回の九学会連合大会特別講演で柳田先生が語ったのは、風の名前、黒潮に乗って産卵に訪れる海亀の話、徐福(じょふく)伝説、宝貝、竜宮譚(たん)、海神伝説、といったものだ。
語り口のうまさと華麗な文学的修辞に、わたしなどはすっかり面白く聞いていたのだが、あらためて指摘されれば、「日本人南方起源論」という大風呂敷を広げたわりには、根拠となる具体的な事実は一切示されなかった。
--日本人の祖先は島伝いに南から渡ってきた。
講演で提示された「南方起源説」の根拠となっているのは、柳田先生自身が見聞きした事実の断片と、いくつかの伝承、それをもとにした先生の直感だけだ。
自説に有利な資料をつまみ食いして、あとは想像力で紡(つむ)ぎあげた一種の御伽噺(おとぎばなし)--極言すれば“大いなるファンタジー”と、言えなくもない。
まさに柳田先生がこれまでもっとも嫌い、自戒とともに避けてきた方法論ではないか? もはや帰納法、演繹法、以前の問題である。
聴衆のなかに、そんなふうに思った学者研究者が少なからずいたはずだ。
柳田先生はなぜ、今回あえてこのような内容で講演されたのか?
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