その二
柳田国男先生による特別講演終了後、大会事務局に顔を出すと、部屋に妙な空気が流れていた。
各九学会から派遣された事務方、若手研究者の面々が、困惑したようすで顔を見合わせている。
「どうするの、これ? 誰か、まとめられるの?」
頭のうしろで手をくみ、投げ出すように質問を発したのは「日本考古学会」の吉村(よしむら)という若手研究者だ。
事務局に集まった者たちはみな、あさっての方向に目をむけ、誰も返事をしない。質問は宙に浮いたままだ。
気まずい沈黙のなか、わたしは隣にいた幾らか年配の人に小声でたずねた。
「……どうしたんです?」
「いや。どうしたも、こうしたもね」
胸に「日本社会学会 清瀬(きよせ)」と名札をつけたその人は、苦笑しながら、やはり小声で事情を教えてくれた。
九学会連合大会ではもともと、柳田先生に「この国に伝わる不思議な話」をテーマに特別講演を依頼していたのだという。
それは、そうだろう。
わたし自身、柳田国男先生の名前を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、「怪異」や「不思議な話」といった言葉である。
二週間ほど前。会場近くの大学に通うわたしは、卒業論文の担当教授から本大会での柳田先生のお世話係を申しつかった。卒業単位と引き換え、と言われては否応(いやおう)もない。
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