これまで自明とされてきた祖霊の居場所が、近くの山の上から、遠い海の彼方(かなた)にある“ニライカナイ”に設定し直された。人が死んだ後--もしくは生まれる前に--霊魂となって移動する場所が“近くの山の上”から“海の彼方”となった。霊魂の移動が“垂直方向”から“水平方向”に変更されたわけだ。
信仰者にとっては、文字どおり世界がひっくりかえるほどの大きな変化だ。
大変化はしかも、祖霊信仰の基本概念にとどまらない。
たとえば、資料の扱い方。柳田民俗学ではこれまで一貫して、大量の一次資料を収集し、資料をして自(みずか)ら語らしめる研究手法を主張してきた。
具体的にはまず、主(おも)にボランティアからなる大勢のアマチュア調査員が「百の質問」を記した採集手帖(てちょう)を携えて地方に赴き、土地の者に自ら質問して、答えを“採集”してくる。これが、研究の出発点だ。
採集手帖に記載されるのは、質問への返事(言葉)ばかりではない。質問したときに土地の者がどんな反応をしたのか、目配せやニヤニヤ笑い、そっぽを向いた、言いよどみ、顔をしかめた等、表情や身ぶりに関する、さまざまな情報を書き込むための広い余白が工夫されている。
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